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コケはどうやってふえるの?コケの雌雄と生殖の不思議
コケを育てていると、コケがどうやってふえているのか気になりますね。普通の植物のように花を咲かせて種をつくることはないコケ植物ですが、どんな生殖の戦略を持っているのでしょうか。
ミュージアムパーク茨城県自然博物館の鵜沢美穂子さんに、コケの雌雄と生殖の秘密についてお話を伺ってきました。
※この記事はこちらのインタビューを要約しまとめたものです。鵜沢さんと道草の苔トークを聞きたい方は、ぜひ動画もチェックしてくださいね。
>>コケはどうやってふえる?コケのオスメスと生殖の不思議【コケの達人②鵜沢美穂子】(YouTubeに遷移します)
コケの生殖サイクルを教えてください
「まず、コケにはオスとメスが同じ茎にできる『雌雄同株』の種類と、オスとメスが違う個体にできる『雌雄異株』の種類があります」と鵜沢さん。
「雌雄異株の場合、季節になるとオス株には『造精器』、メス株には『造卵器』ができます。(雌雄同株の場合は一本の茎に造精器と造卵器の両方が付く)
それぞれの器官で精子と卵細胞が成熟すると、雨の日に精子が外に泳ぎ出て、卵細胞に到達。そこで受精が起こります」
受精した卵細胞は胞子体に育ちます。胞子体の先端に『胞子のう』というふくらみができ、その中には胞子が詰まっています。成熟した胞子が胞子のうから散布されることで、次世代へと命をつないでいくのです。
野外のコケを観察していてもわかるように、胞子体が立ち上がってくる時期はコケの種類によって異なります。受精してから胞子体が成熟するまでの期間が、コケの種類によってまったく違うのだそう。短い種類では1か月ほどで胞子ができるものもあれば、時間がかかる種類では1~2年がかりということも。
たとえばコツボゴケは、受精から胞子体が出るまで約1年がかり。梅雨ころ受精したものが、1年後の6~7月頃に胞子体を出します。受精がおきても、すぐに胞子体ができるわけではないのですね。
テラリウム内で胞子体を作ることもできる?
胞子体がついたコケの姿は可愛らしく、テラリウムを育てている方たちの間でも人気です。テラリウムの中で胞子体をつけさせることはできますか?
「テラリウムの中で胞子体をつけるのは、残念ながら非常に難しいと思います」
受精が起こるためには、造精器と造卵器の成熟がおこらなくてはなりません。その成熟のためのスイッチが、日長条件の変化や気温条件の変化。屋外のコケは季節の変化を感じとり、生殖のための準備を始めるのです。
室内で栽培をしていると、そのスイッチがなかなか入らないのだそう。
「野外で受精までいった個体をテラリウムで育てれば、胞子体が出てくることはあるかもしれません。テラリウム内で受精が起こるのは至難の業です」
確かに、花をつける植物でも、冬の寒さに当てないと花芽ができないものがあったりしますよね。コケもそれと同じく、生殖のためには屋外の環境の変化が必要だということ。そもそも造精器と造卵器の成熟が起こらないので、容器の中に雄株と雌株があったとしても、受精が起こらないというわけです。
有性生殖と無性生殖
今まで説明してきた生殖の方法は、精子と卵子が受精して起こる「有性生殖」。コケ植物の多くは、有性生殖以外に「無性生殖」という手段をもっています。
これは自分と同じ遺伝子の個体をクローンのようにふやす生殖方法で、たとえばゼニゴケの無性芽などもそのひとつ。
「どの種類のコケもこの2タイプの増え方ができる、というわけではありません。どちらか片方だけというコケもたくさんあります」
胞子をまいてコケをふやす
育てているコケをふやしたいと考えたとき、刻んだ葉を蒔いて増やす「まきゴケ」や、成長したものを株分けする方法が一般的です。
胞子は被子植物の「タネ」のようなものなのだから、胞子をまいて増やすこともできるのでしょうか。鵜沢さんが胞子から育てたというゼニゴケを見せてくれました。
こちらが胞子をまいてから4か月目のゼニゴケ。
「胞子が発芽するとまず『原糸体』と呼ばれる糸状の体ができます。次に、原糸体からコケの体となる茎葉体が出てきます。胞子の発芽から茎葉体の芽ができるまでに少なくとも半月以上はかかると思いますね」
時間はかかるけれど、コケを胞子でふやすのは不可能ではないとのこと。胞子が手に入ったら実験してみるのも面白そうです。
コケの雌雄の見分け方を教えてください!
せっかくだから、コケの雌雄を見分けられるようになりたい!コケの雌雄を日々調べている鵜沢さんに、道草が持参したコケを鑑定してもらうことに。
持ってきたのは、こちらの6種類です。
・コウヤノマンネングサ
・ヒノキゴケ
・タマゴケ
・ホソバオキナゴケ
・コツボゴケ
・ムチゴケ
「まず、このコケが雌雄同株のタイプか雌雄異株のタイプか、図鑑で調べることができます」
なるほど、図鑑にはそんな情報が載っているのですね。
図鑑でひいてみたところ、コツボゴケ・コウヤノマンネングサ・ホソバオキナゴケ・ヒノキゴケは雌雄異株。タマゴケは雌雄同株とわかりました。
「ムチゴケは…わからないですね」
わからない!?
「ムチゴケの生殖器は見つかっていません。なので、雌雄同株か雌雄異株かわからない。基本的には無性的に生きているコケですね。生殖器を見つけたら大発見ですよ」
なんと、テラリウムでもよく使うムチゴケですが、まだ有性生殖についてはよくわかっていないとのこと。まだまだ未知のことが多いのですね…
こちらのコツボゴケはどうでしょうか。
「コツボゴケは、横に這うように伸びる茎では、雌雄がわかりません。春先になると立ち上がるような直立茎が出て、雄と雌がわかりますよ」
鵜沢さんが見せてくれたわかりやすい茎はこちら。
「雄株は茎の頂端が花のようにカップ状になっています。雌株は茎の先端に大きめの葉が密生して、造卵器を守るようになっています。雄は先端のカップ状の部分に水をため、精子を泳ぎださせるんですね」
確かに春先のコツボゴケには、這わない茎があることがありますね。今度見つけたら詳しく見てみよう…!
ヒノキゴケには、胞子体がついているものもありました。
「ヒノキゴケは雌雄異株のタイプなので、胞子体がついている個体はメス株と断定できます」
胞子体がついていないヒノキゴケが雄なのか雌なのかは、目で見ただけではわからないとのこと。造精器や造卵器は非常に小さな器官なので、顕微鏡で観察しないとわからないのだそうです。
顕微鏡で造精器・造卵器を見てみました
実際に実体顕微鏡を使ってコツボゴケの造卵器をみせてもらいました。
「これが、造卵器が束になっているものです。受精できるのはこの中でひとつだけなんですよ」
さらにピンセットでほぐして、ひとつの造卵器にしたものがこちら。
「ここに造卵器の口があって、ここから精子が入ってくるんですね」
造卵器の長さは1㎜ほど。なるほど…ものすごくミクロな世界です。
こうやって日々コケを観察している研究者の方がいることで、コケの生態が少しずつ明らかにされているのですね。
コケの雌雄と生殖の不思議 まとめ
コケはどうやってふえるの?テラリウムの中で胞子ができないのはなぜ?といった疑問に、しっかりと答えていただけるインタビューとなりました。
・自分のクローンをつくる無性生殖と、受精して胞子でふえる有性生殖がある
・種類によって、雄株と雌株が別々にある「雌雄異株」タイプと、「雌雄同株」タイプがある
・造精器と造卵器の成熟には、気温や日長の変化が必要なので、テラリウムの中では難しい
・胞子をまいてコケを育てることは可能
・コケの雌雄を見分けたい場合は、まず図鑑で調べよう
コケの生殖の仕組みには、まだまだわからないこともたくさん。みなさんも是非、ミクロな不思議に思いをはせてみてください。
※この記事はこちらのインタビューを要約しまとめたものです。鵜沢さんと道草の苔トークを聞きたい方は、ぜひ動画もチェックしてくださいね。