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苔(コケ)はなぜ寒さに強いのか?南極に生きるコケから学ぶ生存戦略
苔は寒さにとても強い植物だと知っていますか?
冬は雪に埋もれる高山にも苔はたくましく生えていますし、苔盆栽や苔玉も屋外で冬を越すことができます。
苔テラリウムのコケも、夏の暑さでトラブルを起こすことはあっても、寒い時期は比較的元気にしていますよね。
そして、地球上で「極地」と言われるほど厳しい環境である南極にも、苔は生えているのです。
ほかの植物が生きられないほど過酷な寒さの中でも、なぜ苔は生きていけるのか。
今回は、苔(コケ)と寒さの関係について考えてみましょう。
1.コケとほかの植物との違い
みなさんもご存知のとおり、普通の植物は根から水を吸収し、水分や養分は維管束を通って体全体に運ばれていきます。
しかし、コケには水を吸収する根や維管束はなく、体全体から水を吸収しています。(根にみえるものは仮根という器官で、コケの体を固定させるものです)
また、一般の植物の細胞は、水分を保持するために硬いクチクラという層で守られています。極度に乾燥するとクチクラは壊れ、細胞は死んでしまいます。
コケの細胞には、このクチクラもありません。その代わりに、コケの細胞は細胞膜が柔軟で丈夫。乾燥して水分が逃げても壊れることなく、再び水分が得られたら活動を始めることができます。
コケ植物は普通の植物より原始的ですが、このような仕組みのおかげで、極度な乾燥には強いのです。
2.寒くて水が凍る=乾燥
それでは、極地の環境について考えてみましょう。
南極は、夏の平均気温はマイナス1度、冬の平均気温はマイナス20度にもなる、とても寒い地域です。
気温が氷点下になると、池の表面も凍りますし、空気中の水分も凍ってしまいます。つまり、極度の寒さは、極度の乾燥でもあるのです。
氷点下になる→水分が凍る→利用できる水がない=乾燥
植物にとっては、寒さというより、液体の水が使えるか使えないか…が生死を分ける重要なポイントになります。
南極は1年を通して極度に乾燥した地域であり、それによってほとんどの植物は生育できません。
南極で生きる植物は、草本類が2種類、コケ植物が約30種類。
その他には地衣類や藻類がいる程度です。南極には、樹木もシダも生息できないのです。
3.コケは乾燥に強い=寒さに強い
1項でお話ししたとおり、コケ植物は極度の乾燥に耐えられる仕組みを持っています。
水分がまったくない極度に乾燥した状態でも、コケの細胞は壊れずに休眠することができるのです。水分が得られると全身で吸収し、光合成や生命活動を始めます。
南極の場合、1年のうち夏のほんの少しの期間だけ、雪解け水が流れるような場所があるそうです。
そのような「1年で数週間だけ水がある」という状況でも、コケはしぶとく生きることができるのですね。
みなさんが普段見かけるコケは道路のすみっこに生えている苔が多いと思います。
夏の熱いアスファルトの上でカラカラになるときも、冬の雪の降る寒い時期も生き抜くことができるのは、乾燥に強いからなんです。
湿ったまま寒くなるのは苦手かも?
コケは乾燥に耐えられる仕組みを持っているため、南極のような極地の寒さにも耐えられるということがわかりました。
では、苔テラリウムを瓶ごと冷凍庫に入れても元気に生きられるのでしょうか?
実験してみた結果…
冷凍庫から出して常温に戻した苔テラリウムは、枯れてしまいました。
なぜでしょう?おそらく、湿ったままの状態から急に低温の冷凍庫に入れたため、ダメージが大きかったのではないのかと思われます。
日本の冬でも徐々に気温が下がり、乾燥していきますよね。テラリウム内のように湿度を保ったまま凍るのは苦手なのかもしれません。
4.まとめ
苔(コケ)はなぜ寒さに強いのか?南極に生きるコケから学ぶ生存戦略はいかがでしたか?
「氷点下になる=水分が凍る=利用できる水がない=乾燥」ということで、乾燥に耐えられるコケは結果的に寒さにも強く、極地でも生き延びているということがわかりました。
苔テラリウムの場合も、冬よりも夏の方が圧倒的にトラブルが多いです。日本の室内の寒さくらいなら、コケにとっては問題なく過ごせるのだと思います。
夏から冬へ。苔テラリウムの様子をよく観察して、コケの小さな変化を感じとってみてください。
―――
今回のコラムは、南極でコケの調査をしている国立極地研究所・伊村智先生のインタビューをもとに書き起こしました。
南極の湖の中には、こんなモコモコした「コケボウズ」があるらしいです。むしろ繁栄の地は陸地より水中なのだとか。
道草と伊村先生の対談動画もありますので、南極のコケに興味を持った方はこちらもぜひご覧ください。
動画はこちらから視聴できます。↓↓